急性期病院の受け皿施設としての役割
第8回 慢性期医療を考える会 (静岡)
「急性期病院の受け皿施設としての役割」
介護老人保健施設萩の里 唐澤真吾
目的
萩の里は平成25年5月より、在宅強化型老健へ移行に向け取り組みを始めた。その目的は、①入所中の利用者様だけでなく地域包括ケアを目指し、1人1人の利用者にとって良い環境作りが出来るよう他事業所との連携を行う、②安心して在宅生活を営むことができ、入所待機中や在宅生活時の家族の介護負担軽減を図る、そして③地域包括ケアの中核施設として、認知症リハビリやターミナルにも対応できる老健を目指す、である。
方法
平成24年4月に行われた介護報酬改定により、老健は従来型と在宅強化型に分かれた。この介護報酬改定により萩の里では、在宅強化型老健の移行に向けて準備を開始した。
H25年5月時点で、萩の里は定員100床(うちショートステイ5床)を有する施設であり、在宅復帰率20.8%、回転率11%、そして重度者が58.2%と高く、在宅復帰につながる利用者はわずかであった。この状況を打破するためには、意識改革が必要であった。
移行に向けての方法として、①在宅復帰を利用者家族に知って頂く為に説明を行い入退所の予定を組む、②当施設スタッフへ、よりニーズに沿ったサービスを提供し、多職種連携を行うに向けての意識改革と目標の統一を図る、③在宅復帰後の受け皿となる地域のケアマネジャー、在宅サービスなどと入所時から連携し、今まで以上に細かく情報共有を図る、とした。
結果
まず、利用者やその家族が申込みに来る際には、在宅復帰に関する説明を行った上、ニーズを聞いた。説明を行うことで、利用者自身が「家に帰りたい」という想いを表現し、それを家族も理解することで『在宅復帰』という共通の目標を持ち、精神的負担の解消と意欲の向上が見られた。そして、状態確認時には当施設の各スタッフが同行し、検討会時には家族のニーズを元に目標を設定した。同時に在宅生活の受け皿となるケアマネジャーや在宅サービスなどと連携することで、退所後のプランが検討し易くなった。更に、ショート用ベッドを20床に増やしたことで、緊急ショートや家族の介護負担軽減のための再入所を、必要に応じて受け入れることができた。
次に、急性期・回復期からの受け入れを強化した。元々、入院前に在宅生活を送っていた利用者と家族は介護疲弊していないため、共に在宅復帰へ意欲的であった。そのため、病院からの受け入れが増えたことで、在宅復帰者も増えるという好循環が生まれた。回転率が向上すれば退所時期に新規を受け入れることができるため、ある程度の入所受入時期が把握でき、病院側も入院期間を短縮することができるので、更に利用者の紹介も増加した。
更に、国は『7:1入院基本料における自宅などに退院した患者の割合についての基準』を新設した。一般病棟7対1入院基本料は、施設基準を厳格化することで、高度急性期を担う病床だけが残るよう「ふるい」にかけられる様になり、自宅等退院患者割合が75%以上と設定された。この「在宅等」には在宅復帰機能強化加算を届け出ていない療養病棟が対象から外れるため、7対1病棟から療養病棟への患者紹介・転棟が難しくなる一方、在宅強化型老健は「在宅等」に含まれる。そのため萩の里では、急性期・回復期病棟の医療相談員との連絡を強化し、周辺症状がある患者含めて多く受け入れ始めた。
結果、H26.1/1~H26.12/31の1年間で90名の新規受け入れがあり、その内訳は急性期病院44名、回復期病院9名、在宅20名、その他施設からの受け入れが17名であった。また、退所人数100名のうち、在宅復帰した利用者は60名であった。そして、H26年6月から在宅強化型老健へと移行することが出来た。
まとめ
在宅復帰を行うためには、利用者と家族、施設内スタッフ、病院や他事業所の理解と協力を得て、意識してもらう事が必須である。そして、在宅復帰後も家族・ケアマネジャーと連携を取り、利用者の状況や家族の介護負担を把握し、必要であれば介護負担軽減のための再入所など行うなど、在宅復帰後のサービスを検討し続けていくことが必要である。更に、急性期・回復期病院から、他の老健で断れるような腎移植後の方や心肺機能低下されている方、精神科へ行くような周辺症状を有する認知症などの重症者の受け入れも行い、老健で適切な治療を経て在宅復帰希望される方も支援する。
(介護老人保健施設とは…)
介護保健において、入所施設は様々あるが、医療・介護の連携を担う施設は老健をおいてはない。老健は医師が常勤しており、看護師も24時間勤務し、そしてリハビリがあるのもその特徴であり、多職種が協働で利用者様に対応している。
介護老人保健施設の役割(全国老人保健施設協会より):
1.包括的ケアサービス施設
2.リハビリテーション施設
3.在宅復帰施設
4.在宅生活支援施設
5.地域に根差した施設
(在宅強化型老健とは)
在宅強化型老健の要件は:
1.在宅復帰率50%以上
2.ベッド回転率10%以上
3.介護4,5のものが35%以上か、喀痰吸引実施者10%又は経管栄養10%以上