第25回全国老健大会(岩手)

はじめに

認知症の増加に伴い、BPSDが出現し、対応に困惑することが多い。
従来はこれらの症例に対して精神科の病院などに収容され治療されることが多かった。
しかしこれらだけでは多くの症例が、充分に対応ができるとは考えられず、地域に密着した老健施設で対応できないかと考えた。
今回、我々は陽性症状を伴った認知症に対して、新しい試みとしてショートステイ(以下SS)に収容し、薬物治療を行い、さらに症状が安定した後に在宅へ帰す試みを行ったので報告する。本法を行うキーワードは我々施設側に働く全てのスタッフの考え方を変える事である。すなわち、施行の枠組みを根底から変えるパラダイムシフトが必要である。

目的及び方法

BPSDを伴う認知症は家族にとっても医療・介護側にとっても大きな負担となる。
そこで今回、特に陽性症状を伴ったBPSDの事例に対してSS利用してもらい、少量の薬物治療を行い、その効果を検討した。さらに症状の改善後、在宅へ戻す試みを行った。
平成24年4月から平成26年3月までの2年間に入所したBPSDを発症した認知症例27例を対象とした。SSに際し、新たに何らかの薬物治療を行った。年齢は81.9±9.5歳(M±SD)、発症よりSS利用までの期間は45.7±28.4ヶ月、SS利用日数は8.04±9.6回であった。
疾患の内訳は①アルツハイマー型認知症16例②脳血管性認知症8例③レビー小体型認知症2例④前頭側頭葉変性症(ピック病)1例であった。

結果

薬物治療によって改善15例、やや改善6例で合わせて21例(78%)が有効であった。変化が見られなかったのは3例(11%)であり、過鎮静により変化したものが3例(11%)に見られた。
また、使用した薬剤は第1選択薬としてグラマリール、ウインタミン、抑肝散が19例(56%)。第2選択としてセロクエル、リスパダール、ジプレキサなど8例(30%)であった。なお、BZ系の睡眠剤は8例(30%)に用いた。
投与量はKono methodを参考にした施設内天秤法を用いて行い、症状に合わせて安定するまで毎日薬のコントロールを行ってゆく。そして症状が安定した時点で固定量とする。

考察

陽性症状のBPSDを有する認知症27例に対し、SSを利用し、良好な結果を得た。但し、小柄で体力低下のみられる症例は過鎮静になることが多く、注意を要する。又、薬物治療は初期投与が重要であり、入所後は施設内天秤法に基づき調整した。
今後とも症例を増やし、薬物治療を行い、地域医療に貢献してゆきたいと考える。

まとめ

老健のSSにおいてBPSDを合併した認知症に対して薬物治療が可能かを検討した。その実行にはパラダイムシフトがキーワードとなる。
① まず、老健のトップである医師(施設長)が自ら学び直す必要がある。
② 同時に、スタッフであるナース、ヘルパー、PTさらにはケアマネージャーにも教育が必要である。
③ 病棟においては、症例から学び、よりクオリティの高い医療・介護を行う事が可能となった。
以上よりBPSDを合併した認知症であっても、老健施設において充分対応可能と考える。