第24回 全国老健大会(金沢)

はじめに

医療法人社団秀慈会では、平成二十四年一月より『社内木鶏会』と呼ばれる、職員たちによる自主的な勉強会を実施している。
『木鶏』とは、中国の故事に由来している。闘鶏のため育てた鶏が、物怖じせず木の鶏のようだったことから、よりよい人間を目指す勉強会の由来とした。つまり「人間学」を学ぶ勉強会である。雑誌『致知』を活用し、掲載されている記事の感想文を発表し、意見交換を行うことによって、職員間の交流を深める。そして個々の目的意識を高め、社内の目標やベクトルをひとつにしていくことを目指している。これは、過去に実施してきた、業務内容に直接関わる技術的な勉強会とは異なる、新しい試みである。
本論では、約一年半に渡って実施してきたこの勉強会が、参加した職員に対して実際にどのような意識の変化をもたらしたのかということを、アンケートの結果をもとに考察していきたい。

対象・方法

『社内木鶏会』の方法は以下の通りである。
当施設では毎月、勉強会開催日の約二週間前に、施設内掲示板や回覧にて「今月のテーマ」が発表される。これは、雑誌『致知』に掲載されている記事の中から、担当者が特に優れた三~五つをお題として選んだものである。参加者は、これらの中から最も感銘を受けた記事を一つ選び、当日までにそれを要約しつつ、簡単な感想文を書いておく。
木鶏会当日、参加者らは三~四名の小グループに分かれ、用意してきた感想文をそれぞれ口述発表する。そしてその感想文に対するコメントを、他の参加者が述べる。このとき必ず、相手の感想文の良いと思った点だけを述べる、「美点凝視」というルールが採用される。それにより、普段気づかないお互いの長所を発見できるのである。
小グループでの発表が終わると、各グループのリーダーが全体の前に出て、グループ内の発表内容をまとめる。そして最後に、主催者が総括を述べ、会は終了となる。
以上のような内容で毎月実施されている『社内木鶏会』が、一年半を経て、参加者にどのような変化・影響をもたらしているのか。それを考察するために、参加経験のある秀慈会の職員三十名を対象に、全四項目から成る選択・記述方式のアンケートを実施した。対象職員の職種は、医師、看護師、リハビリスタッフ、介護士、事務員など多岐にわたるものである。
アンケートの各質問内容は以下の通りである。
問一:これまでの木鶏会の参加回数(選択式)
問二:木鶏会に参加したことによる、考え方・価値観の変化の有無(選択式)
問三:木鶏会に参加するメリット(選択式)
問四:木鶏会に参加して良かった点・気づいた点(記述式)

結果・考察

アンケートの集計結果は以下の通りであった。
問一への返答としては、参加回数が「七回以上」と答えた者が全体の約八割おり、ほとんどの職員が継続して勉強会に参加していることが窺えた。一方で、「一~三回」と答えたものは三十人中二人で、新規の参加者はいるものの、少数に留まっているようであった。
問二への返答としては、木鶏会に参加することで、自分の人生・仕事に対する考え方に「変化があった」と答えた者が全体の約七割おり、この勉強会が各職員の意識に少なからず影響を与えていることが窺えた。
問三への返答としては、十の選択肢の中から、「さまざまな人の生き方を知ることができる」や「同僚の考え方・価値観などが分かる」などが特に多く選択された。このことから、『致知』に登場する人物の生き方が、年齢や職種に関わらず、参加者の視野を広げるものとして大いに参考になっていることや、勉強会自体が、職員間のコミュニケーションの場として活発に機能していることが推察できた。
また、問四への返答からは、問三のメリット以外にも、「仕事に対する意識を高められる」「一つのテーマに対し様々な視点があることに気付く」「普段話す機会のない、他部署の人との交流が深められる」といった効果があるという、前向きな意見が多く寄せられた。
さらに、「本を読む機会が増えた」「自分の価値観をはっきりさせられる」など、仕事とは直接関係のない、個人の人生や生活にも良い影響をもたらしていることが窺えた。

まとめ

以上の結果から、『社内木鶏会』が参加者に対してさまざまな良い影響をもたらしていることが判明した。そしてその影響は、大きく分けて二種類に分別されるようであった。
一つは、『致知』を読むこと、あるいは感想文を書いたり読んだりすること自体が、参加者個人のスキルアップ(文章力やコミュニケーション力強化)につながったり、仕事や人生に対する意識そのものを高めることにつながっている。
そしてもう一つは、この勉強会を開催することで、職員間の交流がより活発になり、結果的にお互いの価値観を共有しつつ、目標を一つにまとめることにつながる。さらに、日々のチームワークが重要な業務にも非常にプラスになっている。
この二つの結果が、『社内木鶏会』を実施することによって生まれた、と考察される。さらに「美点凝視」という方法を採用したこともあり、次第によりよい人間へと変化し、参加者がよりポジティブになったと思われる。
医療法人において、このようなシステムを採用しているケースは極めて稀である。今後も、このような意欲的な勉強会を継続し、医療法人としてのさらなる発展へとつなげていきたいと考えている。