平成28年度 第27回全国老人保健施設大会 大阪

タイトル:認知症患者の在宅復帰に向けたトイレ移乗アプローチ 第2報
筆頭演者:医療法人社団 秀慈会 萩の里 堀井栄作
共同演者:田代圭佑、磯部五月、柴田恭兵、齊田郁子、竹田朱里、小林沙樹、武士美羽、大平政人、萩原秀男

 

 

はじめに

認知症短期集中リハビリを行っている入所利用の対象者に在宅復帰に向けたトイレ移乗に特化したプログラムを実施し、トイレ移乗動作の自立度の改善と共に認知機能検査にも有意な改善がみられたため報告する。

 

 

対象と方法

平成27年3月から1年2ヶ月までの認知症短期集中リハビリを行っている症例にトイレ移乗プログラムを実施した11症例を検査群、実施していない8症例を対照群とした。身体機能の低下が著しく、トイレ移乗動作のFIMが2点以下の重介助者、または在宅復帰に関してトイレ移乗動作の能力向上をニーズとしていない症例は対象外とした。

方法は入所後に在宅生活を想定したトイレ移乗マニュアル(以下マニュアルとする)を設定し、その動作でビデオカメラを使用しセラピストが行った手本のVTR①を作成する。マニュアルはA4用紙を使用し手順を記載する。

週3回の認知症短期集中リハビリで1回目はVTR①とマニュアルを症例に確認させ実際に設定した動作を行いVTR②を作成する。その後設定した動作を口頭で説明させテストする。他の日は初めにVTR①とマニュアルを確認し、マニュアル通りに動作が行えるよう実践する。ビデオカメラを使用して本人の実際の動作の様子をVTR②として作成し、マニュアルと比較して外在的フィードバック(視覚・聴覚)を与え訓練した。期間は3週間実施した。プログラムを行う際は必ず家族または本人に同意を得た上で行った。

 

 

結果

評価は検査群と対照群に分けて検証した。HDS-R、MMSE、CDT(時計描画テスト)とトイレ移乗動作のFIMを初回と最終集で評価し、上昇値を比べ有意差を検出した。

トイレ移乗動作のFIMでは検査群で平均0.7点増加し、対照群は平均0.2点増加し

検査群に有意な改善が得られた。(p<0.05)

HDS-Rの合計は検査群で平均1.8点増加し、対照群は平均0.6点増加したが有意差は得られなかった。

MMSEの合計は検査群で平均0.9点増加し、対照群は平均1点で減少し、検査群に有意傾向が得られた。(0.05<p<0.1)

CDTの合計は検査群で平均0点と変化なく、対照群は平均0.4点減少し、検査群で認知機能の維持がみられた。(p<0.05)

有意差が出たMMSEは各項目で検証したが、3段階命令とワーキングメモリに有意差がみられた。どちらも検査群の上昇値が高かった。

 

 

考察

以上の結果から3つの認知機能検査で検査群の方が平均点の上昇値が高かった。視覚的フィードバックや音読が前頭前野を活性化し、認知機能進行を遅らせることができる報告がある(川島,2002;福田,2006)。本研究のプログラムでVTRや口頭テストの外在的フィードバック(視覚・聴覚)を提示した学習訓練を行い、MMSE(ワーキングメモリ)の有意な改善が得られたことから前頭前野が活性化し、認知機能を改善させた可能性があると考えられる。また、MMSE(3段階命令)にて有意な改善がみられた。3段階命令は指示に対しての聴覚理解を検査している。マニュアルを音読させることで、聴覚連合野が活性化する報告があることも踏まえ3段階命令の改善に至ったと考えられる(児島,2000)。

今回の研究でもトイレ移乗動作のFIMに有意な改善が得られた。動作の自立度改善には運動学習が重要である。運動学習はフィードバックを受け取り理解し、運動プログラムを構成、運動出力へと変換、運動の予測と結果を比較し修正することで学習効果が得られる。認知症患者は一般的に記憶する機能から徐々に低下し、運動学習が難しくなることが判明している(神崎,2012)。本研究では実際の動作のVTRと成功VTRを比較して指示することで、学習していく上で必要不可欠である動作の予測と結果の修正を手助けしていることから3週間という短期間でもトイレ動作の自立度改善に繋がったと考えられる。

 

結論

本研究ではトイレ移乗動作のプログラムが新しい動作を学習することが難しい認知症患者に対しても、学習効果が得られかつ認知機能の改善に効果的であった。