第25回全国老健大会(岩手)

Ⅰはじめに

介護老人保健施設萩の里では平成24年11月よりロボットスーツHAL®福祉用(以下、HAL®)を導入している。現在入所・通所のリハビリテーションの一環として実施し、2年間で8症例に対してHAL®を実施した。今回HAL®を利用した事で立ち上がり動作や歩行能力に著明な改善が認められたためここに報告する。

Ⅱ対象

脳血管疾患や脊椎疾患の8症例(男性6名、女性2名)で平均年齢70.6歳±19.6歳を対象とした。対象者及び代諸者に十分に説明を行い、同意を得て実施した。

Ⅲ方法

1.実施内容
HAL®の訓練は20分/回、1~3回/週の頻度で実施した。訓練内容は、座位での膝関節の屈伸運動、立ち上がり訓練、立位バランス訓練、ステッピング訓練、歩行訓練を実施した。HAL®実施中疼痛の訴えがあった場合はリハビリを中止した。また、HAL®とは別に個別リハビリを1~3回/週実施した。
2.評価
1ヶ月毎に評価を実施した。評価項目は(1)握力(2)大腿四頭筋筋力(以下、MMT)(3)姿勢・動作分析(4)座位でのFunctional Reach Test(以下、FRT)(5)片脚立位時間(6)5m通常歩行時間(7)Timed “Up and Go”Test(以下、TUG)を行い、初期と最終で比較した(t検定)。

Ⅳ結果

HAL®実施中にA-Hの8症例中G-Hの2症例に容態が悪化したためHAL®の実施を中止した。
握力、MMT、FRTは全症例で改善を認めた。FRTは平均12.25cmまで改善し、有意な向上を認めた(p<0.05)。4症例で片脚立位時間が延長しTUG、5m通常歩行時間が短縮した。4症例のTUGは平均約26秒、歩行速度は平均約2秒早くなり、いずれも有意な改善を認めた(p<0.05)。また、片脚立位の行えなかったE症例が5m通常歩行を行えるようになった。しかし、F症例は5m通常歩行の改善をする事ができず、5m歩行の時間が延長する結果となった。
Ⅴ考察
HAL®実施後は立ち上がり動作のスピードや安定性に改善を認めた。立ち上がり動作は骨盤の前傾を伴う前方への重心移動が必要である。しかし、多くは座位からの立ち上がり動作では骨盤の前傾が少なく、前方への重心移動が不十分で、離殿行為までに時間を要していた。今回HAL®を使用し、適切なタイミングでのアシストを行う事で立ち上がりに必要な筋収縮が可能となった。また、重心移動の程度を専用のPCを使用する事で、視覚的フィードバックを得た。すなわち、体性感覚と視覚情報の統合により重心移動の学習に繋がったと考えた。前方への重心移動の評価であるFRTは、全症例で有意な改善を得た。
歩行の特徴として、健側立脚期で骨盤の前傾が生じにくく、後方重心をとる事が多かった。そのため、立位訓練では座位訓練と同様にHAL®を利用し、体性感覚と視覚フィードバックを与えた。これにより骨盤による重心のコントロールが改善され、支持基底面内での重心線を後方から前方に移行する事が可能になった。以上より、立脚期が安定し、反対側の遊脚をスムーズに行う事が可能になり、歩行スピードの向上と歩行の安定に繋がったと考える。
また、1症例のみ歩行時間が延長したが、麻痺側の支持性が高まり、立脚を慎重に行うようになったためと考える

Ⅵ結論

HAL®を利用する事で体性感覚と視覚のフィードバックを統合する事に繋がり、反復訓練を行う事で効果的な学習が可能となった。これより重心移動が改善し、歩行動作や立ち上がり動作に著明な変化をもたらす事ができた。ロボットスーツHAL®は運動機能の改善が明らかであり、今後も症例を重ねて検討して行きたいと考える。