平成28年度 第27回全国老人保健施設大会 大阪

タイトル:社内木鶏会の効用~感謝で生まれた新しい認知症棟~

筆頭演者:医療法人社団 秀慈会 萩の里 田村浩臣
共同演者:小島功大、大平政人、萩原秀男

目的

認知症棟とは介護離職が最も多い病棟である。職員は日々精神的・身体的ストレスにより、介護と言う職種から離職しようと考えている。問題は身体面にある訳ではなく、精神面にあるという事。精神的負担を大きく改善するには心を鍛えなければいけない。現場が無事稼働しているのは現場スタッフの努力である。それを感謝の言葉として伝えるのが会社でありリーダーでもある。職員に対して存在感を認める美点凝視を含めた人間学が認知症棟には必要である。木鶏会をリーダー・職員が行う事で現場に思いがけない好循環が生まれている。介護職員の退職者を少しでも減らしたい気持ちを込めて報告する。

 

 

木鶏とは

中国の古典「荘子」にある言葉で、立派な闘鶏の、いかなる敵にも動じないその様子が、まるで木彫りの鶏のようであったという故事に由来します。転じて、何事にも動じず、常に平常心でいられること、また、いかなる境地にあっても自分の実力どおりの力を発揮できる、本物の人間のたとえにも使われる言葉です。

 

 

木鶏会の流れ

致知出版社より発行されている「人間学」がテーマの月刊誌「致知」(書店では市販されていない)を活用する。担当者が特に優れていると思われる記事を5つ選び、参加者はそれらの中から最も感銘を受けた1つの記事について感想文を書く。当日、参加者は3~4名のグループに分かれ感想を発表、意見交換を行う。その際「美点凝視」という相手の良いと思った点だけを述べるというルールがあり、それにより普段は気付かないお互いの長所を発見し、日々のチームワークが重要な介護の現場において、非常に大切な要素を養う事ができる。

 

 

方法

・社内木鶏会を行い、職員の心を強くする。

・リーダーは部下に対して美点凝視の意識を持つ。

・感謝の好循環を会社に作り、退職者を無くす。

 

 

結果(1)

退職者が出る理由はいくつかに分かれている。

1 スタッフの日々の努力が上司から認められていない。

2 家族から感謝の言葉がなく、悪質なクレームを言われる。(精神的ストレス)

3 上司が部下を守らない。(スタッフ間の雰囲気が悪い)

これらは全て精神的ストレスであることが分かる。介護職員は介護をする事に対しては全く問題がないと話す。問題は上記にあげた、これらである。つまりこの問題の解決策を考える事で介護職員の離職は大幅に減少すると考えた。

 

 

結果(2)

1.木鶏会を行う事で職員の心の向上に努めた。木鶏会は簡単に言うと、致知という本の記事を読み、感想文を書いて発表会を行う会になる。致知に記載されている内容は、社会で活躍されている偉人達の人生について述べている記事になる。それを自分の“今”に照らし合わせて読む事で、起こった出来事をプラス思考に考えることが出来る。つまり致知の記事を読む事で、人間性の向上と心のケアに繋がっている。

2.木鶏会で自身の感想を発表した内容に対して、職員は美点凝視で発表をした方を褒める。上司が部下に褒める。部下が上司を褒める。思った事や思っていた事などを伝えるチャンスの場でもあり、会社における自身の存在感を高められる。結果1のスタッフの日々の努力が上司から認められていない。という問題は上司と面と向かって会話が出来ていない事から生じている。木鶏会を通して、部下への感謝の気持ちを込めて美点凝視する事で、部下は自身の存在を大きく感じることが出来、上司と部下の間に信頼と尊敬が生まれる。自身をしっかりと見てほしい、と日々思っている部下はどの会社でも同じである。きっかけ作りがこの会の最大のメリットである。

3.木鶏会を通してお互いの気持ちが分かり合えることで、感謝の気持ちに変わる。感謝には種類がある。受ける感謝とする感謝である。これはどちらも大切な事である。受ける感謝は喜びを感じ自身のモチベーションに繋がり、する感謝は相手のモチベーションを向上させる。

“感謝”を認知症棟と照らし合わせてみる。認知症棟は施設勤務の方なら誰でも理解できると思うが、非常に過酷である。その過酷な現場でスタッフに追い打ちをかけるのがクレームである。家族からのクレームを無くすにはもちろん手厚い介護が必要とされる。ただ理不尽なクレームもある。普段面会に来ない家族ほど、理不尽なクレームがある。それを無くすために、スタッフに対して家族に感謝の言葉を求める様にしている。と同時にスタッフも家族に感謝をする。木鶏会の効果もあり、心が強くなっている為、少しのクレームでは気持ちがぶれなくなっている。ただ感謝の言葉を家族から頂くことは、スタッフのモチベーションに繋がり、介護士冥利につきる重要な事であるのは理解して頂きたい。

4.致知の記事の中には自己犠牲という事が多く書かれている。致知を読む事で、考えが利他的になる為、上司は部下を第一に考えるようになる。結果3の上司が部下を守らないとは、上司の考え方が利己的になっているから、部下に不信感を与えてしまっていると考える。偉人たちの生き方を真似る事を本から教わる。それが自然と利他の心を学ぶことに繋がる。

 

 

考察

施設それぞれに違う問題がある。しかし原点は職員の満足であり喜びである。働くことに対して、職員が満足できるような、リーダーや組織の考えがあれば、退職者を0にする事は可能である。その一つの手段として木鶏会がある事を皆さんに伝えたい。私たちの職場は三年間身体的・精神的ストレスでの退職者は0である。