地域包括ケアの中核施設としての役割
第26回全国老人保健施設大会(神奈川)
平成27年9月3日~9月4日
タイトル:地域包括ケアの中核施設としての役割
演者:唐澤 真吾
はじめに:川上~川中~川下とは何か
平成26年6月に在宅強化型に移行して1年が経過し、昨年の老健大会では「在宅強化型老健の早期実現をするための我々の工夫」を発表した。今まで培った在宅強化型老健としての役割をサービスの流れから踏まえて、行わなければならない役割がみえてきた。
川上とは急性期病院や回復期病院、川中とは療養型病院や老健等の施設サービス、川下とは在宅系サービスのことである。老健が在宅強化型となることで、地域包括ケアシステムの中核施設となり、この入院から在宅までの一連の流れを途切れさせない重要性を報告する。
目的:老健が求められていることの検証
急性期・回復期からの受け入れ、他老健との連携、また在宅サービスへの流れを切れ目なく行うために各病院や施設で求められていることを確認した。
病院では在院日数の削減のために日々努力をしている。次の受け皿となる老健ではどのような事が求められるのか。また、他法人の老健とどのような連携が必要とされるのか。さらに、在宅復帰を行ったあとの在宅サービスで求められているものは何か。その際、在宅復帰をするにおいて重要な家族の意向とそれに対する必要な事とは何か。
方法:川上~川中~川下で求められているもの
各病院や施設で何が求められているのか知る必要がある。お互いの状況を理解する事で円滑な連携ができ、和が生まれる。
静岡市では急性期病院が9件ある。多様な疾患で入院に至るが一番の問題は早期退院である。
病院から求められるものは、素早い退院先の受け入れ、リハビリの継続、認知症の対応などがある。受け入れる際の問題点は、著しい栄養状態の低下によるリスク、早期退院のため病院でのリハビリ目標が曖昧、サマリーの記載内容の乏しさなどが挙げられる。また療養型と老健の間のグレーゾーン患者の棲み分けの理解も重要な点である。
他法人の老健・特養としては、特に連携自体がない現状である。そのため問題点は、従来型の老健や特養のため連携する機会がない、転所する際のリハビリ継続が困難などある。
在宅サービスから求められるものは、入所中サービス内容の情報報告である。問題点は非常に多く、医療との連携、ケアマネジャーの不必要なサービスの追加、独居者の見守り不足などがある。
結果:老健は多様な対応が求められる
静岡市では急性期病院が数ある中、入所受け入れに関し、こちらの要望する紹介が増えた。市内では在宅復帰を目的とした施設として周知されている。急性期は7:1入院基本料により18日以内に退院を促すため、医療行為がある方でも紹介があり、療養型との連携も必要になってくる。老健は施設によって行う医療行為に差があるし、経管などの制限の有無なども重要。また急性期では認知症患者に関してかなり厳しい状態で入院させている。川上医療の時点で淀みが発生すると在宅までの流れが止まるのでスムーズに受け入れる体制作りが重要であった。診療情報提供書などを頂ければその時点で検討し、早ければ一週間以内に受け入れも行ってきた。
老健がいかに早く受け入れるかによって、在宅へ帰すためのハードルが変わる。伸び代がある段階で早期受け入れをする事が、病院の医師や医療相談員へ施設の特色を知っていただけるし、今後の入所紹介数にも関わってくる。
老健同士では、在宅強化型と従来型というだけでなく、ショートが何床あるのか、施設長の専門は何か、医療行為はどこまで出来るか、などの特色を知っていれば大いに連携ができる。求められる施設の特色としての役割分担、入所受け入れまでの一時的な他施設ショート利用などの連携が考えられる。
在宅復帰後の在宅サービスでは、まずは家族の介護力を知らなければならない。どんなに介助量が多くても受け入れてくれる家族はいる。これは同居している続柄によって退所できる条件は異なる。認知症患者になるとその条件は狭まる。認知症への理解をしていただく事が重要で、BPSDを併発している場合は少量薬物での管理を行い、家族のBurn outの防止をする。家族介護負担軽減を踏まえた介護力のフォロー、緊急時の入所受け入れ、医療との連携など安心できるサービスの提供が必要。本人にとって地域に根ざした生活を提案して、現状の維持ではなく地域の多様な機能を惜しみなく利用する。老健を中心とした安全な生活基盤作りが構築できる。
今回の介護報酬改定からデイケアの機能強化があった。社会参加に向けた取り組みに関する加算があり、老健退所後はデイケアを利用する事でリハビリを継続して行い、社会参加して頂く。在宅強化型では、退所後一か月以上経過したら再入所するリピーターが多いが、取り組み次第ではこの問題を解消できる。
考察:今後の老健に必要なもの。
多職種が関わることで施設内だけでなく安心した在宅生活を送る為に、豪華客船に乗っているような感覚でいていただかなければならない。施設と在宅が近くなることが重要である。老健は医療50%、介護50%を行え、多くの利用者に対応する事が可能である。川上と川下の連携は必要であるが、川中との連携が出来るかによって多くの高齢者を救うことに繋がる。在宅復帰が社会参加まで繋がるものにしていかなければならないし、認知症を含め、地域で安全に過ごしていただく。退所後も関わり続けていけるのも老健である。
2025年には高齢者が4人に1人になる。施設の数は限られているため、在宅で見守ることのできる地域包括ケアが必要。2035年には人口減少とともに、高齢者も減少していくが、施設も実績を残さなければ生き残れないと感じる。