はじめに

「フロアの雰囲気を明るく出来ないか」その思いから思考錯誤を重ね、笑顔という言葉にたどり着いた。笑顔のあるフロアと言ってもいったい何をすれば良いのか、そして笑顔とは何なのかを考える事から始めた。笑顔は、人が生活をしていく上で、対人関係を築くための不可欠なものである。介護施設において、利用者や利用者家族・スタッフ間でコミュニケーションを行う上で、笑顔という言葉が重要な鍵となる。
笑顔でいることで身体にどのような影響があるか、また笑顔でいることでフロアにどのような効果があるのかの検討を行いつつ、明るいフロア作りに着手した。

笑顔は笑顔を呼ぶ

笑顔で話をする事は、相手にもその楽しさを共感して欲しいという人間の心理から来る物であると思います。話し手は聞き手より46%も多く笑っているという研究結果がある。それは自身が話をすることで相手にも聞いてもらいたいという思いから来る表情のジュスチャーであると考えます。表情は人間の持つ無限の機能の1つであり、表情が相手の第一印象として認識されます。
イタリアパルマ大学の研究者ジャコモ・リゾラッティがミラーニューロンを発見しました。ミラーニューロンは、他の人の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように、鏡のような反応をする神経細胞のことです。笑顔が笑顔を呼ぶ原点はこの神経細胞からきています。笑顔は私たち人間にだけ与えられた特別な物です。これは人間として生きていくためのコミュニケーションの方法であり、話の出だしに自然と活用されるケースが多くあります。

笑う門に福来たる

人は怒りと喜びを同時に表現する事ができません。これは、交感神経と副交感神経の2つの神経で構成されている自律神経が関係している。交感神経は怒りや恐れ、不安などの感情を司り、副交感神経は感謝や喜びなどの感情を司っている。これは利用者もスタッフも同様なため、笑顔でいることはとても重要なことと考える。
笑顔は、身体面にもいい影響があると言われている。なぜならば、免疫物質が多くなり、NK(ナチュラルキラー)細胞が活性化されるため病気を予防することができる。また、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが分泌されることにより感情的な情報をコントロールし安らぎや安心を感じるため心が安定する。

方法

当施設の認知症病棟スタッフの協力を得て、ミラーニューロンがBPSDのある認知症患者でも有効であるかどうか検証を行った。あるスタッフは笑顔で、別のスタッフは真顔で認知症患者に接し、それぞれ何回認知症患者を笑顔にすることができるか比較をした。また、笑顔になることにより何らかの効果が得られるか、ADL等の変化で確認を行った。

結果

認知症患者に対し笑顔で接することで、笑顔でいる間はBPSDが軽減され、病棟の負担を減らすことができている。また、ある認知症患者はミキサー食から常食に食事形態が改善した。笑顔が食事形態を改善させたきっかけの1つであると考えられる。
さらに、笑顔はスタッフにも意外な効果を生んでいる。笑顔になる回数が増えることで幸福感を得られ、平成26年1月から現在まで入所スタッフのバーンアウト(燃え尽き症候群)による離職者が0名となっている。

考察

当施設に見学に来た方が、「ここは一般棟ではないか」と勘違いする程に現在の認知症病棟は笑顔で満ち溢れている。BPSDの軽減、食事形態の改善、離職者0名などの結果は、笑顔だけがもたらしたわけではないだろうが、笑顔が重要なファクターの1つであることは考えられる。
笑顔のある施設と言ってしまえば当たり前になってしまうが、すでに言われている笑顔の科学的効果を考慮しても、利用者・利用者家族・スタッフが笑顔になる仕組みを施設として、スタッフとして今後も継続して取組まなければならないと考える。