第26回全国老人保健施設大会(神奈川)
平成27年9月3日~9月4日
タイトル:時計描画は新しい認知症評価となりうるか
演者:塚本 恵美子

はじめに

認知症の増加に伴い、BPSDの対応にも苦慮する例が多く見られる。我々の施設でも入所前面談にてCDT(時計描画テスト)を行い、認知症のおよその程度を把握し、入所検討会に臨んでいる。更に入所日にはHDS-R、MMSE、に加えて再度CDTを行い、認知症短期集中リハビリの必要性の是非を決定している。加えてKP(家族)にもその場で本人の認知症の状態を説明している。
今回、これら3つの検査方法を行い、若干の知見を得たので報告する。

目的及び方法

現在、認知症のスクーリング検査としては、HDS-R(長谷川式簡易知能スケール)、MMSE(Mini Mental State Examination)、CDT(Clock Drawing Test=時計描画テスト)がある。 HDS-R、MMSEの前2者はそれぞれにメリット、デメリットがあるが、CDTを組み合わせて行うことで、より認知症検査の精度が上がり、認知症の程度を判別し、必要に応じ脳リハビリにつなげることが可能となる。 いずれも検者は同じ人(施設ケアマネ)が行い、HDS-R、MMSEは同時に、CDTは必要に応じ3段階のものを用意し、約15~20分で行った。
期間は2014.6月~2015.4月に行い、入所者80名を対象とした。男女比の内訳は男34名、女46名であり疾患の内訳はアルツハイマー型認知症(AD)が55例、脳血管性認知症(VD)17例、レビー小体型認知症4例、前頭側頭葉変性症(FTLD)3例、正常圧水頭症1例であった。

結果

80例をMMSEの点数により3群に分けて検討し、軽度群43名、中等度群30名、高度群7名であった。cut off値は23/24点(30点満点)とし、CDTは8点以下で認知症とした。年齢は軽度群82.9±8.7才、中等度群85.1±7.1才、高度群81.4±7.9でいずれも有意差はなかった。
MMSEは軽度群21.4±2.9、中等度群14.1±2.9、高度5.6±2.9であり、軽度群VS高度群、軽度群VS高度群に有意差(P<0.001)を認めた。又、HDS-Rは軽度群20.4±4.6、中等度10.5±7.0、高度2.1±0.9であり、軽度群VS高度群、中等度群VS高度群で、有意差(P<0.001)を認めた。又、中等度VS高度群に有意差に近い傾向を認めた。一方、CDTは軽度群7.5±1.1、中等度4.9±2.5、高度群1.2±0.8であり、軽度群VS高度群(P<0.001)軽度群VS高度群(P<0.002)は有意差を認めた。一方、これら3つの検査法でそれぞれ相関関係を検討した。
MMSEとHDS-RはR2=0.662の寄与率で相関関係を認めた。又、MMSEとCDTにも、前者よりやや低いものの、相関関係を認めた。(R2=0.476) 今回、これら検査の中で戸惑った事がHDS-RとMMSEの点差が多くみられた事である。多くはMMSE>HDS-Rであり、これが5点差あるものを更に詳しく検討した。HDS-RとMMSEの間には5点差群にもR2=0.869と相関関係が見られた。その一方、CDTとMMSEではR2=0.381と弱い相関関係となった。(R2=寄与率であり、相関関係数rの2乗したもの)この一方で乖離例もみられた。すなわちCDTが正常(8.5点以上)なのにMMSEが23/24のcut off値以下。あるいはMMSEがcut off値より正常なのにCDTが8点以下のものが19例(24%)にみられた。

考察

時計描画(CDT)は動作性知能を調べる検査法であり、短時間に行え、負担の少ないというメリットがある。
CDTは目(後頭葉)と耳の情報(側頭葉)を前頭葉に送り、頭頂葉で空間認知を行い、前頭前野より指示を出し(遂行機能)、大脳皮質から脊髄路を経由して時計描画(CDT)を行う。従って、一応、大脳の全ての部位を使うのであるが、単独では判定に無理があり、HDS-RとMMSEを組み合わせて行う事が良いと考えられる。
一方で、CDTとHDS-R、MMSEとの乖離例が24%に見られ今後の検討を要すると思えた。

まとめ

今回、我々は入所の認知症80例を対象にCDTの有用性をHDS-R、MMSEを同時に行う事で検討した。
1.CDTは軽度→中等度→重度となるにつれ点数が有意に低下し、その形態も特徴的だった。
2.MMSEとHDS-Rの相関関係は良好であった。
3.MMSEとCDTとの間に相関関係は認められたが、MMSEとHDS-Rの間に5点差以上の
差があるケースはCDTの精度が低下した。
4.CDTとHDS-R、MMSEとの乖離例が24%見られ、その判断に検討を要した。
5.認知機能のスクリーニング検査を入所時にすぐ行うことでリハビリ(認知症短期短期集中)
の指示が可能となった。